『ツルネ』は、勝敗の派手さだけのスポーツアニメではない。
もちろん試合の緊張感はある。勝つか負けるか、その場面ごとの重さもしっかりある。
けれど、この作品が本当に丁寧に見つめているのは、矢を放つその一瞬だけではない。引く前に揺れる気持ち、放ったあとに残る音、同じ部にいる相手との距離、言葉にならない焦り。そういうものが、静かな時間のなかで少しずつ積み上がっていく。
その積み上がりがあるから、試合の場面がちゃんと熱い。
大きな声で盛り上げなくても、見ているこちらの気持ちがじわじわ引っぱられていく。
『ツルネ』は、そういう熱さを持った作品だと思う。
まずは簡単に作品紹介をしておこう。
『ツルネ』は綾野ことこの小説を原作とするアニメで、TVアニメ第1期『ツルネ ―風舞高校弓道部―』、劇場版『劇場版ツルネ ―はじまりの一射―』、TVアニメ第2期『ツルネ ―つながりの一射―』へと続いている。アニメーション制作は京都アニメーション。第1期スタッフには監督・山村卓也、シリーズ構成・横手美智子、音楽・富貴晴美らが名を連ねている。
どんな話か
主人公は鳴宮湊。
中学時代の経験をきっかけに弓道から離れていた彼が、高校で再び弓に向き合っていくところから物語は始まる。風舞高校弓道部の仲間や指導者との出会いを経て、もう一度弓を引こうとするのだが、話はただの部活再始動では終わらない。技術だけでは片付かない迷いや、心と射のずれのようなものが、ずっと湊の前に残り続ける。
この作品の面白さは、弓道を上達していく話であると同時に、自分の感覚や他人との関わり方を見つめ直していく話でもあるところだ。
青春ものではあるのだが、勢いだけで駆け抜けるというより、一歩引いて呼吸を見つめるような時間が多い。そこが『ツルネ』らしさだと思う。
見どころ
1. 音が、作品そのものの空気をつくっている
『ツルネ』を見ていてまず印象に残るのは、やはり音だ。
タイトルにもなっている弦音はもちろん、それ以外の静けさもすごく大事にされている。
喋りすぎない。音楽を鳴らしすぎない。
だからこそ、一射の音がきれいに立つ。
弓道という競技は、派手な接触やスピード感で見せるものではないぶん、映像化すると地味に見えそうな気もするのだが、『ツルネ』はそこを真正面から引き受けている。そして、その静けさを退屈にせず、ちゃんと見どころにしてしまう。
見ているうちに、こちらまで呼吸をそろえてしまうような場面がある。
あの感覚は、この作品ならではだ。
2. 練習描写がまっすぐで、雑に飛ばされない
スポーツアニメによっては、試合が主役で、練習はそこへ向かうための助走として処理されることも多い。
でも『ツルネ』は、その助走の部分をかなり大事にしている。
フォーム。呼吸。視線。立ち方。射の乱れ。
そして、個人競技のようでいて、団体戦では周囲との噛み合いも問われる弓道の難しさ。
そういう細かい部分を、気合いだけで飛び越えさせない。
この誠実さがあるから、いざ試合に入ったとき、一本一本に理由が出る。
良かった、悪かった、で終わらない。
その一本に至るまでの迷いも、積み重ねも、一緒に見えてくる。
3. 人間関係が簡単には片付かない
風舞高校弓道部のメンバーは、同じ場所で同じ競技をしていても、弓道への向き合い方がそれぞれ違う。
好きの方向も違えば、抱えているものも違う。
だから、同じ目標に向かっているはずなのに、きれいに足並みがそろうわけではない。
ここが、この作品のかなり好きなところだ。
部活ものというと、衝突があって、乗り越えて、すっきり和解して、という流れを想像しがちだが、『ツルネ』はもう少し揺れ方が細かい。
言葉にできない違和感が続いたり、近いからこそ言えないことがあったり、相手を思っているのに噛み合わなかったりする。
そのぶん、ふと気持ちが通る場面がちゃんと嬉しい。
大げさではないのに印象に残るのは、そこまでの積み方が丁寧だからだと思う。
4. 京都アニメーションの描く所作が、この作品にとても合っている
『ツルネ』を語るうえで、京都アニメーションの存在はやはり大きい。
弓を構える手つき、歩幅、姿勢、視線の置き方。
ただ綺麗に動かすだけではなく、その人が今どういう気持ちでそこに立っているのかまで、体の動きににじませるのが本当にうまい。
緊張しているときの硬さ。
迷いがあるときの微妙な間。
まっすぐ引けたときの美しさ。
弓道という競技は、感情を大きく外へ出す場面が多いわけではない。
それでも、いや、だからこそ、所作の描写がそのままドラマになる。
『ツルネ』は、その相性の良さがかなり際立っている作品だ。
ここは好みが分かれそう
とても好きな作品なのだが、人によっては少し合わない部分もあると思う。
まず、毎話大きな事件が起きるわけではない。
展開の速度でぐいぐい引っぱる作品ではなく、練習や準備、心の揺れをじっくり追っていく時間が多い。
なので、常に強い刺激がほしい人には、少しおとなしく見えるかもしれない。
それから、人間関係の比重がしっかりある。
試合だけを見たい、競技パートだけをどんどん進めてほしい、という気分で見ると、やや温度差が出る可能性はある。
ただ、この静かな運び方や寄り道のように見える時間が、最終的にはちゃんと作品の芯になっている。
そこに合うかどうかで、評価が分かれそうだ。
こんな人にはかなりおすすめ
『ツルネ』は、こんな作品が好きな人にすごく合うと思う。
スポーツものでも、試合の勝敗だけではなく、所作や空気感まで味わいたい人。
チームの関係や心の揺れも含めて見たい人。
映像と音で静けさを描くアニメが好きな人。
逆に、テンポの速さや展開の派手さを最優先で求めるなら、最初は少し乗り切れないかもしれない。
でも、数話見てこの呼吸が合ってくると、一気に見え方が変わる作品でもある。
まとめ
『ツルネ』は、静かな作品だ。
けれど、静かだから熱が弱いわけではない。むしろ逆で、騒がしくしないからこそ、一本の重さや、一人ひとりの迷いがよく見える。
勝つことだけを描くのではなく、どう引くのか、どう向き合うのか、どう呼吸を合わせるのか。
そういう部分まできちんと目を向けた弓道青春ものとして、とても誠実なアニメだと思う。
派手なスポーツアニメを探している日に手を伸ばす作品ではないかもしれない。
でも、静かな場面にちゃんと熱が宿る作品を見たい日に、『ツルネ』はかなり良い。
弦の音ひとつで、ここまで気持ちを持っていかれるのかと、たぶん思うはずだ。

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