派手な展開が続くわけではない。
毎回きれいに問題がほどけて、見終わった瞬間に爽快感だけが残る作品でもない。
それでも、なぜかまた次の話を観てしまう。
一区切りついたはずなのに、あと一話だけ、と手が伸びる。
『夏目友人帳』は、私にとってそういうシリーズだ。
妖怪を描く物語でありながら、前に出てくるのは恐ろしさよりも切なさであること。
優しさを描いているのに、ただ甘いだけの話にしていないこと。
そして、人と妖怪のあいだにある距離を、とても丁寧に見せてくれること。
どれも派手ではない。
けれど、この作品をこの作品らしくしているのは、たぶんそういう部分なのだろう。
作品紹介
『夏目友人帳』は、妖怪を見ることのできる少年・夏目貴志が、祖母の遺した友人帳に縛られた妖怪たちへ名前を返していく物語である。
夏目は妖怪と関わるなかで、自然と人間側の事情にも触れていく。助けることもあれば、反対に助けられることもある。
ただ、この作品が面白いのは、主人公が何でも鮮やかに片づけていく話ではないところだと思う。
夏目は、誰かを救うために全力で走ることはあっても、いつも完璧な答えを出せるわけではない。
相手の事情を知ったからといって、すべてが丸く収まるとも限らない。
そこが、この作品の好きなところでもある。
好きなポイント
『夏目友人帳』は、構造だけを見れば似たような話の繰り返しに見えなくもない。
妖怪と出会い、その事情に触れ、何かしらの別れや変化が訪れる。
書き方によっては単調になってしまいそうな流れだと思う。
けれど、実際に観ていると、そんな印象にはならない。
ほっと息をつける回がある。
しんみりと余韻を残す回がある。
少し苦くて、見終わったあとにすぐ言葉にできない回もある。
これで良かったのだろうか、と考えさせられる回もある。
この後味の幅が、私はとても好きだ。
妖怪の話をしているようでいて、その実、人が抱えている感情のほうをじっと見つめている回が多いからだろう。
寂しさや後悔や、誰にも言えなかった思いが、妖怪という存在を通してふいに浮かび上がってくる。
だからこそ、その回その回で胸に残るものが違ってくるのだと思う。
好きなポイント2
夏目は完璧ではない。
図太さで突き進む人でもない。
気を遣いすぎて疲れてしまうし、飲み込んだままにする言葉も多いし、怖いものはちゃんと怖い。
その不器用さが、私にはとても信じられる。
妖怪と向き合う場面でも、華々しく勝つというよりは、どうにかその場をしのぐとか、ぎりぎりで間に合うとか、そういう描写のほうがずっと多い。
そこに無理がないから、夏目が何かを選ぶ場面に、きちんと重みが出るのだと思う。
見ている側からすると、放っておけなさは確かにある。
けれど、それが単純に庇護欲だけへ転がっていかないのも良い。
弱さだけで描かれているわけではなくて、臆病さやためらいを抱えながらも、それでも相手に手を伸ばそうとする芯がちゃんとある。
そのバランスが、すごく好きだ。
好きなポイント3
ニャンコ先生がただの賑やかしでは終わっていないこと。
最初に観たときは、正直かなりかわいい側の存在として入ってきた。
丸い。ふてぶてしい。食べる。騒ぐ。愚痴も言う。
あまりにも自由で、場の空気を軽くしてくれる。
けれど、話数を重ねるほど印象は変わっていく。
あの存在は決して可愛さだけでは片づかない。
肝心な場面で状況を見ているし、必要なときには踏み込むし、逆に踏み込みすぎない線も知っている。
夏目とニャンコ先生の関係を一言で説明するのは難しい。
仲が良い、だけでは足りない。
保護者のようだと言うにも、少し違う。
近すぎず、遠すぎず、それでいて確かに隣にいる。
あの距離感が、この作品の空気をずいぶん支えている気がする。
それから、この作品の優しさについても書いておきたい。
『夏目友人帳』は優しい作品だと思う。
でも、その優しさは、ただ物分かりの良い結論へ向かうものではない。
許せないものは、やはり許せないままのことがある。
互いを理解しきれずに終わることもある。
思いが通じたからといって、それだけで過去が消えるわけでもない。
それでも、ほんの少しだけ何かが変わる。
相手を見る目が変わるとか、言えなかったことに触れられるとか、その程度の変化かもしれない。
けれど、この作品はその小ささを雑に扱わない。
だから、見終わったあとに説教くささが残らないのだと思う。
こうあるべきだと押し切られる感じがない。
ただ、確かに何かがそこにあったと思わせてくれる。
その余韻が、私は好きでたまらない。
好みがわかれる部分
盛り上がりが連続する作品ではない。
大きな事件が次から次へと起こるわけでもない。
何が起こったか以上に、そこで誰が何を思ったのかを大事にする回が多い。
だから、テンポの速さや明快なカタルシスを求めて観ると、やや静かに映るかもしれない。
けれど、その静けさのなかにある感情の揺れを味わえる人には、かなり深く残る作品だと思う。
『夏目友人帳』は、やさしい話である。
けれど、油断していると不意に胸をつかまれる。
毎話あからさまに泣かせにくるわけではない。
むしろ、淡々と進んでいく回も多い。
でも、その淡々とした流れのなかに、誰にも言えなかった気持ちや、過去の悔い、ひとりで抱えてきた時間の重さが、静かに混ざっている。
それがふとした瞬間にこちらへ届く。
大きな声ではないのに、妙に忘れられない。
そういう刺さり方をする作品なのだと思う。
きっとこのシリーズは、何年後かに見返したとき、同じ回が同じように残るとは限らない。
その時々の自分の状態によって、心に引っかかる場面は変わるだろう。
今日は気にも留めなかった一話が、別の日にはやけに重たく見えるかもしれない。
そういうふうに、観る側の時間まで抱え込んでいく作品は、そんなに多くない気がする。
何も考えず、やわらかい気持ちでアニメを観たい日にも向いている。
少しだけ自分の内側に触れたくなる日にも、たぶん合う。
長く付き合っていける作品、という言葉がいちばん近いのかもしれない。
ちなみに、個人的にいちばん好きな回は、参の四話「幼き日々に」である。
『夏目友人帳』のことをまだよく知らなくても、この一話だけでちゃんと胸に残る。
作品全体の空気もよく出ていると思うので、気になっている人にはぜひ観てほしい。
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