細目さん

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『色づく世界の明日から』感想 静かな時間のなかで、少しずつ色が戻っていく物語──

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最近、観終わった直後に大きな声で褒めたくなる作品よりも、数時間後とか、翌日とか、少し時間がたってからじわじわ思い返してしまう作品に弱い。

『色づく世界の明日から』は、まさにそういうアニメだった。

 

こんなに静かな作品に、ここまで気持ちを持っていかれるとは思わなかった。

大きな事件が次々と起こるわけではない。ずっと緊張感で引っ張り続けるわけでもない。けれど、長崎の街の光、人と人との距離、言葉にしきれないためらい。そういう細かなものをひとつずつ積み重ねながら、最後にはしっかり胸の奥へ届いてくる。

見終わったあとに残ったのは、ものすごい興奮というより、ああ、よかったなあ、という静かな満足だった。

作品紹介

『色づく世界の明日から』はP.A.WORKS制作のオリジナルTVアニメで、2018年10月から12月まで放送された全13話。監督は篠原俊哉さん、シリーズ構成は柿原優子さん、音楽は出羽良彰さん。公式サイトとP.A.WORKSの作品ページを見れば、基本情報はだいたい押さえられる。

物語の始まりは、日常のなかに小さな魔法が残る、少し不思議な世界である。主人公の月白瞳美は、魔法使い一族の少女。幼い頃に色覚を失い、感情も外に出しにくくなってしまった。そんな彼女を案じた祖母の月白琥珀が、瞳美を2018年へ送り出す。そこから、未来の少女が過去で人と出会いなおし、自分の心にも触れなおしていく時間が始まる。

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よかったところ

まず、長崎の街の描き方が本当に見事だった。

背景が綺麗、という一言で片づけてしまうと、少し足りない気がする。坂の多い街の高低差も、夕方の空気も、光の湿度も、ちゃんとそこに人が暮らしている感じがある。ただ美しい風景を並べるのではなく、その場所に流れている時間ごと画面に入っている。だから景色が単なる飾りでは終わらない。瞳美が見ている世界の輪郭を、街そのものが支えているように感じられた。

それから、この作品は題材としての色をとても丁寧に扱っている。

タイトルに色づくと入っているから、最初は視覚的な美しさが前面に出る話なのだろうと思っていた。もちろん画面は綺麗だ。けれど本当に印象に残るのは、色が感情と結びついているところだった。

瞳美にとって色が見えないことは、ただの設定ではない。
人と関わるのが怖いこと。自分の気持ちがうまくつかめないこと。幸せな側へ進んでいいのか迷ってしまうこと。そうした内側の問題が、少しずつ、ほんの少しずつほぐれていく。その歩幅がこの作品はとても誠実で、無理に大きな変化を作らない。だからこそ、変わっていく過程がちゃんと心に残るのだと思う。

そして、2018年で出会う仲間たちがいい。

時間移動の設定そのものを派手に見せる作品ではなく、あくまで瞳美が人と関わりなおすための入り口として機能している。ここが私はかなり好きだった。

同世代の子たちは、みんな万能ではないし、みんな少しずつ不器用だ。それでも相手の言葉を待とうとするし、踏み込みすぎずに手を差し出そうともする。その距離感がとてもよい。誰かにとって当たり前のひと言や、なにげないやさしさが、別の誰かの明日を支えることがあるのだと、静かに見せてくれる。

もちろん、合う合わないはあると思う。

序盤のテンポはかなり静かなので、開始直後から大きく動く展開を求めると、少し物足りなく感じるかもしれない。物語の魅力は勢いよりも余韻のほうにあるし、人間関係の細かな揺れを見つめる時間も長い。なので、一本の映画のように一気に飲み込まれるというより、数話ずつ大事に追っていくほうが馴染みやすい作品かもしれない。

それでも、P.A.WORKSの青春ものが好きな人、背景にちゃんと意味のあるアニメが好きな人、恋愛だけではない人とのつながりや自己受容の話が好きな人には、かなり薦めたい。

観終わった瞬間に大騒ぎするというより、気づけばずっと好きになっている。そういう作品である。


ネタバレ注意


結局この物語は、自分で自分にかけてしまった思い込みを、少しずつほどいていく話だったのだと思う。

番組サイトの冒頭にも、瞳美が自分に魔法をかけた少女であること、そして幸せを拒むような思いを抱えていることが示されている。

この作品がよいのは、その重たさを大げさな変身や劇的な覚醒だけで片づけないところだ。

瞳美が前に進めるようになるのは、誰かに受け入れられたこと、自分の弱さを言葉にできたこと、逃げたあとでも戻ってきてよいのだと知れたこと、そうした小さな積み重ねのおかげである。魔法が背中を押す場面はあっても、瞳美を変えていく中心にあるのは、やはり人との関わりなのだと思う。

だから終盤、未来へ戻るという流れがきちんと前進として見える。
過去に残ることが救いなのではなく、出会ったものを持ったまま未来へ帰っていけることに意味がある。あそこは声を上げて泣くような場面ではないのに、見終わったあと、じんわり胸に残り続けた。

『色づく世界の明日から』は、観終わった瞬間に今年の一番だと叫びたくなる作品ではないかもしれない。
けれど、数日たってからふと思い返して、あれは本当にいいアニメだったなともう一度言いたくなる。私にとっては、そういう作品だった。

世界が急に変わるわけではない。
でも、人と出会いなおすことで、見えているはずの景色の受け取り方が少し変わる。そのことを、こんなに静かに、こんなにきれいに描いた作品はやはり好きだと思う。