旅のアニメを観ると、知らない街へ行きたくなる。
見たことのない石畳の道とか、地図に載っていない路地とか、そこでしか流れていない空気とか。そういうものに触れたくなって、少しだけ遠くへ出かけたくなる。
今回観た『魔女の旅々』も、最初はそういう気分を満たしてくれる作品なのだろうと思っていた。
これは、やわらかい旅アニメの顔をしていながら、実際にはかなり容赦のない寓話だった。
世界はきれいだし、イレイナは可愛いし、画面全体の空気も軽やかで入りやすい。ところが、見進めていくと不意に空気が変わる。ひどく静かに、でも確実に、観る側の心に重みを残していく回がある。
見終えたあと、ただ楽しかったでは終わらない。あれは何だったのだろう、と考え込んでしまう。『魔女の旅々』は、そういう作品だった。
『魔女の旅々』はどんなアニメか
主人公は魔女のイレイナ。各地を旅しながら、いろいろな国や人々に出会っていく物語である。
ただ、この作品で印象的なのは、イレイナが何でも救ってくれる存在ではないことだ。困っている人がいても、国の仕組みにゆがみがあっても、彼女はあくまで旅人としてそこに立つ。深く関わることもあれば、関わりきらずに去っていくこともある。
この距離感がとてもよかった。
物語の主人公というと、どうしても目の前の問題を解決していく姿を期待してしまう。けれど旅とは、本来そういうものばかりではないのだと思う。見て、知って、考えて、それでも自分はまた次の場所へ向かう。『魔女の旅々』には、その感覚がちゃんとある。
だからこそ、この作品の旅はきれいごとだけでは終わらない。
好きだったところ
1話ごとに表情がまるで違う
『魔女の旅々』は、1話ごとの空気がかなり変わる。穏やかな回もあれば、ほほえましい回もあるし、思った以上に苦い余韻を残す回もある。
この振れ幅が、とても旅らしい。
旅先で出会うものは、いつも美しい景色や親切な人ばかりではない。思いがけず気分のいい日もあれば、なんとも言えない後味の悪さを抱えたまま宿に戻る日もある。『魔女の旅々』は、その不均一さを作品の中にしっかり持ち込んでいる。
単に世界は広い、では終わらない。
場所が違えば、そこで正しいとされるものも違う。人が当たり前だと思っていることも違う。その事実を、説教くさくなく、でも確実に見せてくるところが面白かった。
イレイナが善人として描かれすぎていない
イレイナは魅力的な主人公だ。軽やかで、華があって、見ていて楽しい。
でも同時に、いつも誰かのためだけに動く人物でもない。
優しい場面はあるし、情のある反応もする。けれど、どこか冷静で、少し距離を取っていて、場合によってはかなりドライにも見える。その揺れ方が、人間らしくてよかった。
主人公があまりに正しく、あまりに立派だと、物語が少しだけ遠く感じることがある。『魔女の旅々』はそこを外してこない。イレイナは好感の持てる人物でありながら、きれいな理想像にはなっていない。だからこの作品の世界の厳しさも、変に薄まらないのだと思う。
もし彼女が毎回すべてを背負い、すべてを救い、すべてに結論をつけてしまったら、この物語は旅ではなくなってしまうだろう。もっと別の、使命の物語になっていたはずだ。
映像からちゃんと旅の手触りが伝わってくる
街並み、自然、衣装、魔法の見せ方。どれも見ていて気持ちがいい。
この作品には、世界を渡っている感覚がきちんとある。
国ごとに見える景色が変わり、その土地の空気まで違って感じられるのがいい。背景がただきれいなだけではなく、その場所に暮らしがありそうだと思える。旅アニメとして、その感触はかなり大事だと思うので、そこがしっかりしているのは嬉しかった。
それから魔法の演出も好きだった。派手さだけを見せるのではなく、どこか技術として扱われている感じがある。便利な力というより、使いこなすための術として見える瞬間があって、その感覚が作品の雰囲気によく合っていた。
観る前に少しだけ知っておきたいこと
やさしい旅物語だけを期待すると驚く
見た目はかなり可愛らしい。イレイナも魅力的だし、全体の雰囲気も親しみやすい。
だからこそ、気軽な気分で見始めると、思わぬところで足を止められる。
回によってはかなり重い。
穏やかな作品だと思っていたところへ、急に苦さや理不尽さが差し込んでくるので、その落差に驚く人は多いと思う。
ただ、その落差こそが『魔女の旅々』の持ち味でもある。
甘さだけで進まないから、きれいな景色も、やさしい会話も、ただの飾りで終わらない。
イレイナは必ずしも助ける側に立たない
ここは好みが分かれるところだろう。
目の前の出来事に対して、もっと踏み込んでほしいと思う場面はある。助けられたのでは、と思うこともある。
でも私は、この割り切りがあるからこそ、毎話が単純な勧善懲悪にならずに済んでいるのだと感じた。
世の中には、外から来た一人が簡単に変えられないものがある。
『魔女の旅々』は、そのどうにもならなさを消さない。そこがしんどくもあり、同時に印象に残るところでもあった。
こんな人にはかなり合うと思う
短い話の中で空気ががらりと変わる作品が好きな人。
主人公が全部を解決しない物語を面白いと思える人。
旅や異世界ファンタジーの中でも、世界を渡っていく感覚そのものを味わいたい人。
そして、旅を通して価値観の違いに触れていく作品が好きな人。
そういう人には、かなり相性がいいはずだ。
まとめ
『魔女の旅々』は、かわいらしさと苦さが同居している作品だった。
気楽に眺められる回もある。けれど、そのすぐ隣に、簡単にはのみ込めない話が置かれている。
その並び方が、この作品をただのきれいな旅アニメで終わらせていない。
世界は広い。
でも広い世界には、美しいものだけではなく、理解しきれない価値観や、見て見ぬふりのできない現実も含まれている。
『魔女の旅々』は、そのことを可愛らしい絵柄と軽やかな旅路の中で描いていく。
やさしく見えて、実はかなり手厳しい。だからこそ、観終えたあとまで印象に残る。
旅に憧れる気持ちをくれる作品でありながら、旅先で出会う世界の複雑さまで見せてくる。
そのバランスが、とてもよかった。


