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アニメ『夏目友人帳』感想・紹介 心が温まるアニメ

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疲れているときほど、派手な展開や大きな刺激ではなくて、静かにこちらへ寄り添ってくれるような作品を観たくなることがある。

私にとって『夏目友人帳』は、まさにそういうアニメだ。

観ているあいだ、何かものすごい事件が次々起こるわけではない。息を呑むどんでん返しが連続するわけでもない。けれど、不思議と次の話へ、また次の話へと手が伸びてしまう。そして見終えたあとには、ささくれていた気持ちが少しだけなめらかになっている。

そういう時間をくれる作品だと思う。

まずは簡単に作品紹介

原作は緑川ゆきさんの漫画。

主人公は、妖が見える少年・夏目貴志。幼いころからその力のせいで周囲にうまくなじめず、どこか他人との距離を抱えたまま生きてきた彼が、祖母の遺した「友人帳」をきっかけに、妖たちと向き合っていく物語である。

この「友人帳」には、祖母・レイコが妖たちから奪った名前が記されている。名前を返してほしいと願う妖たちに出会いながら、夏目は一つずつ、その名を返していく。

あらすじだけ聞くと、少し不思議で、少し切なくて、いかにも綺麗な話に見えるかもしれない。

でも『夏目友人帳』の良さは、ただ綺麗なだけではないところにあると思う。

ちゃんと寂しさがある。ちゃんと怖さもある。人と関わることの面倒さや、わかり合えなさも置き去りにしない。それでもなお、誰かを信じてみようとする。その歩幅が、この作品はとても丁寧だ。

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結論

こんなに静かなアニメなのに、こんなに忘れがたいのか、と思う。

一話ごとの手触りはやわらかい。けれど観終えたあとに残るものは案外深い。

夏目が出会う妖たちは、恐ろしい存在であることもあるし、どこか人間より人間くさいこともある。長い時間を抱えていたり、誰にも言えない執着を持っていたり、言葉にしそびれた思いを胸にしまっていたりする。その姿を見ていると、妖の話を観ているはずなのに、いつの間にか人の話を聞いているような気持ちになる。

『夏目友人帳』が多くの人の心に残るのは、たぶんそのためだ。

これは妖怪譚でありながら、同時に、人が誰かと関わっていく物語でもある。

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夏目貴志という主人公のこと

夏目は、いわゆる明るくて元気で、ぐいぐい周囲を引っ張る主人公ではない。

むしろ気を遣いすぎるくらい気を遣うし、傷ついた経験があるからこそ、相手の痛みに敏感だ。だから妖に対しても、人間に対しても、簡単に線を引かない。

そこが好きだなと思う。

もちろん、いつでも完璧にふるまえるわけではない。怖いものは怖いし、理不尽な目にも遭うし、どうして自分ばかりこんな目に、と思う瞬間もある。それでも投げ出さずに、目の前の相手を見ようとする。

その誠実さが、声高ではないのに、じわじわと胸に残る。

観ているこちらも、夏目のことを「頑張れ」と応援したくなるし、それ以上に「どうか無理をしすぎないでほしい」と思わされる。そういう主人公は、案外多くない気がする。

ニャンコ先生がいるから、この作品はますます好きになる

そして忘れてはいけないのが、ニャンコ先生の存在である。

招き猫のような見た目で、ふてぶてしくて、食い意地が張っていて、どこか愛嬌がある。最初は賑やかし役のようにも見えるのだが、この存在が作品の空気をものすごく豊かにしている。

笑わせてくれる場面はきちんと笑わせてくれるし、肝心なところではしっかり頼もしい。夏目とべったり馴れ合うのではなく、少し距離のある言い方をしながら、要所ではちゃんとそばにいる。その関係性が本当にいい。

しんみりした話のあとに、ニャンコ先生がふらっと空気を変えてくれると、こちらもふっと息がしやすくなる。

あの絶妙なバランス感覚は、この作品に欠かせない。

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好きだと思うポイント三つ

一つ目は、一話ごとの見やすさと、物語全体の積み重なりが両立しているところ。

妖とのエピソードは比較的一話、あるいは数話でまとまっていることが多く、観やすい。なのに、ただ「いい話だった」で終わらず、夏目の内面や人との関係が少しずつ変わっていく。その積み重ねがきちんと見える。

二つ目は、切なさを切なさのまま放り出さないところ。

『夏目友人帳』には、どうしたって胸が締まる話が多い。届かなかった思い、すれ違ってしまった時間、二度と戻らないもの。そうしたものをしっかり描く。けれど、その痛みだけを残して終わらない。最後には、ほんのわずかでも救いの気配が置かれている。

このさじ加減が、本当にうまい。

三つ目は、和の空気をまとった世界観の美しさである。

森、神社、夕暮れ、古い家、夏の匂い。そうした背景や空気が、妖たちの存在とよく似合っている。画面を眺めているだけでも、この物語が大切にしている温度が伝わってくる。

観ながら何度も思ったこと

『夏目友人帳』を観ていると、誰かに対して少しだけやわらかくなれる気がする。

大きな感動を押しつけてくるわけではない。人生の答えを教えてくれるわけでもない。けれど、人にも妖にも、それぞれ事情があるのだと静かに見せてくる。その視線が一貫しているから、こちらも乱暴な見方をしづらくなる。

言えなかった「ありがとう」とか、間に合わなかった気持ちとか、長く抱えてしまった寂しさとか、そういうものをこの作品は軽く扱わない。

だからこそ、観終えたあとに派手な高揚感ではなく、明日もどうにか日々を送っていこう、と思えるような気持ちが残るのだと思う。

それはものすごく大きな励ましではないかもしれない。

でも、しんどい日には、そのくらいのやさしさがいちばんありがたかったりする。

こんな人には、きっと合う

ただ穏やかなだけではなく、少し切なさのある話が好きな人。

人と人との距離感を描いた作品が好きな人。

妖怪ものや、和の雰囲気をまとった物語が好きな人。

そして何より、少し疲れているときに、静かな物語を観たい人。

そういう人には、一度手に取ってみてほしい作品だと思う。

おわりに

『夏目友人帳』は、やさしい物語である。

けれど、ただやさしいだけではない。寂しさも、孤独も、うまく言葉にできない感情も、きちんと抱えたまま進んでいく。そのうえで、最後にはそっとこちらの手元に小さな灯りを置いてくれる。

元気な日に観てももちろんいい。

でも、少ししんどい日に観ると、この作品の静かな良さがいっそう沁みる気がする。

まずは一話。

たぶんそれだけで、この作品が長く愛されている理由が、少しわかるはずだ。